国内外で大規模地震が頻発しており、文化財・近代化遺産構造物を含む歴史的建造物が被災し、その修復・補強が急務となる一方、有効な対策・方法は確立されていない。そのため、組積造や鉄筋コンクリート造(RC造)の歴史的建造物の修復・補強は、その良否の判断基準が不明確なものも含め、専ら個別対応されてきた。本研究は、組積造や今後増大するRC造の登録有形文化財の保存活用に対応するため、個別対応から普遍的な課題を抽出するとともに、各国が蓄積してきたノウハウを統合し、実験的・解析的に検証することで、歴史的建造物の調査・診断・修復・補強方法に関する技術を確立することを目的としている。また、文化財・近代化遺産構造物の保全に資する高度な資料・ガイドラインを作成するとともに、オーセンティシティを確保しつつ耐震性・耐久性を確保するための保存再生技術の開発を目的としている。
過去になされた文化財・近代化遺産構造物を含む歴史的建造物の調査・診断・修復・補強事例を系統的に整理し、普遍的な課題を抽出するとともに問題点を明らかにする。
国内外の歴史的建造物の調査研究を通して、劣化現象と修復方法を整理し、調査・診断・補修・補強方法の問題点(課題)を明確にする。
課題の明確化1,2に基づき、耐久性向上技術と補強技術について、補強効果、施工精度、景観、耐久性、傷害程度、オーセンティシティ、可逆性、経済性などの観点から評価を行う。
光学的計測技術や削孔ドリル法、ASTM、RILEM TC 127-MSで規定されているフラットジャッキ、微動観測やモニタリングなどの非破壊・微破壊検査技術を組積造・RC造の歴史的建造物に適用し、その有効性や適用範囲を評価、検証する。
材料の劣化現象、特に塩析出による劣化原因と実態の把握のため、内外の環境計測、材料の水分状態の計測、塩の採取分析、材料の水分移動特性を測定する。
材料の化学的分析や材料実験により、材料の劣化メカニズムと将来予測、劣化抑制材料や表面保護の方法を検討し、補修材料の暴露試験や促進耐候性試験に基づく有効な補修方法を提案する。
モニタリングにより補修・補強効果を検証する。
劣化現況調査・診断と環境実験・材料実験・構造実験、構造解析による構造特性・耐震性能の評価、モニタリング結果に基づき、オーセンティシティを確保した上での具体的な材料の補修や構造補強方法の提案(開発)とガイドラインを作成する。
剛体バネモデルを用いて、材料が乾燥・温度変化を受けた場合にコンクリートの影響を考慮できる、部材性能評価方法を構築しています。
せん断補強筋が腐食を受ける場合の基礎研究として,腐食によりせん断補強筋-コンクリート間の付着が失われる場合の力学特性の変化について検討する。
本研究では、コンクリート造の歴史的構造物に対して、オーセンティシティ確保のための外観の変化を抑制したり、調整することの出来る補修技術を提案する。
本研究プロジェクトにおいては、歴史的建造物の補強前後の構造性能を評価する理論的・解析的手法を開発している。
国内外の歴史的建造物に加速度計、変位計、傾斜計、温湿度センサーなどを取り付けモニタリングすることにより、補強前、補強途中の構造的安定性と補強後の補強効果、補修効果を検証する。
歴史的建造物の経済価値を考慮した地震損失評価に基づく当該建造物の供用計画(事業継続計画)策定に資する,構造物の保存再生方法を合理的に選択するための性能評価システムを構築する。